どんなに素晴らしい血統の株も、どんなに高価な鉢も、そしてどんなに理想的な環境も、その株が根を張る「用土」が悪ければ、全てが台無しになります。用土は、植物にとっての「家」であり「食事」そのもの。栽培の成功は、この土作りから始まると言っても過言ではありません。
こんにちは!植物育成家のヒロセです。
「お店で売っている『多肉植物の土』でいいの?」
「赤玉土?鹿沼土?何がどう違うのか分からない…」
園芸を始めたばかりの頃、私も同じ悩みを抱えていました。そして、数々の試行錯誤、時には根腐れという悲しい失敗を繰り返しながら、何年もかけてたどり着いたのが、今の「ヒロセ流ブレンド」です。
この記事では、私が門外不出としてきた、アガベとパキポディウム、それぞれのポテンシャルを最大限に引き出すための「用土の配合レシピ」を、ついに全公開します。単なる配合比だけでなく、「なぜその素材を選ぶのか」「それぞれにどんな役割があるのか」という理由まで、私の哲学の全てを注ぎ込んで解説していきます。
良い用土の絶対条件とは?ヒロセが考える3つのポイント
レシピの前に、私が用土に求める、絶対に譲れない3つの条件をお話しします。この哲学を理解することが、応用への第一歩です。
① 圧倒的な「排水性」と「通気性」
アガベやパキポディウムが最も嫌うのは、根が常に湿っている「過湿」の状態です。水やりをした際に、水がサーッと鉢底から抜け、新鮮な空気が根に行き渡る。これが根腐れを防ぐための絶対条件です。
② 適度な「保水性」
排水性ばかりを求めると、今度は土がすぐに乾きすぎて、株が水を吸う暇がなくなってしまいます。水はけが良い中にも、用土の粒自体が適度に水分を保持し、必要な時に根に供給できる「保水性」も、実は非常に重要です。
③ 崩れにくい「硬質」な素材であること
安価な用土は、水やりを繰り返すうちに粒が崩れて微塵(みじん)になり、鉢の中で泥のように固まってしまいます。これでは排水性も通気性も失われます。粒が硬く、長期間にわたって団粒構造を維持できる「硬質」な素材を選ぶことが、良い状態を長く保つ秘訣です。
【秘伝のレシピ公開】ヒロセ流「基本用土」の配合
それでは、私があらゆる用土のベースとしている「基本配合」をご紹介します。ここから、植物の種類や株の大きさによって微調整を加えていきます。
我が家の基本配合(黄金比率)
- 硬質赤玉土(小粒):4
- 硬質鹿沼土(小粒):3
- 日向土(ひゅうが土)(小粒):2
- くん炭:1
- (お好みで)マグァンプK(緩効性肥料)と殺虫剤(オルトランDXなど)
なぜこの素材?各用土の「役割」と配合理由
硬質赤玉土 – 保水と排水のバランサー
用土の王様であり、ブレンドの主軸です。粒の中に無数の穴があり、水分や肥料分を保持しつつ、粒と粒の隙間で排水性と通気性を確保します。必ず、粒が硬く崩れにくい「硬質」タイプを選びます。
硬質鹿沼土 – pH調整と通気性の確保
赤玉土よりもさらに通気性が高く、土全体を軽く、フカフカにする役割があります。また、酸性の性質を持つため、日本の水道水(弱アルカリ性)を中和し、植物が好む弱酸性の土壌環境を作る効果も期待しています。
日向土(ボラ土) – 最高の排水性を生む
宮崎県で産出される軽石の一種。非常に硬く、全く崩れません。この日向土を混ぜ込むことで、鉢全体の排水性が劇的に向上します。特に根腐れしやすい植物には、この比率を増やします。
くん炭 – 根腐れ防止と有用微生物の住処
もみ殻を炭化させたもので、多くの微細な穴を持っています。この穴が、水の浄化や、植物の成長を助ける有用な微生物の住処となります。また、アルカリ性なので、鹿沼土の酸性を中和する役割や、根腐れ防止効果も期待できます。入れすぎると土がアルカリ性に傾くので「1」の比率が私の黄金比です。
【応用編】アガベ用とパキポディウム用、どう変える?
この基本配合をベースに、育てる植物の特性に合わせて、私は比率を微調整しています。
アガベ用ブレンドのポイント
アガベ、特にチタノタなどは、力強く太い根を張ります。その根をしっかりと支え、成長期には水を欲しがるため、基本配合よりも少し保水性を高めます。
【ヒロセのアガベ用レシピ】
硬質赤玉土の比率を「5」に増やし、その分、日向土を「1」に減らします。これにより、どっしりと安定し、かつ水持ちも少し良い、アガベが好む用土になります。
パキポディウム用ブレンドのポイント
パキポディウムは、アガベ以上に根腐れに敏感です。特に高温多湿の日本の夏を乗り切るためには、排水性と通気性を極限まで高める必要があります。
【ヒロセのパキポ用レシピ】
基本配合から、鹿沼土を「2」に減らし、その分、日向土を「3」に増やします。これにより、水やりをしても一瞬で水が抜けるような、非常にドライな環境を作ることができます。特にグラキリスやブレビカウレには、このくらいの配合が安心です。
まとめ:用土作りは、植物との対話の第一歩
今回ご紹介したレシピは、あくまで私の育成環境(日当たり、風通し、水やりの頻度など)における「最適解」の一つです。
もしかしたら、あなたの環境では、もう少し保水性を高めた方が良いかもしれませんし、逆にもっと排水性を高めるべきかもしれません。
大切なのは、レシピを鵜呑みにするのではなく、それぞれの素材が持つ役割を理解し、自分の環境と、育てたい植物の特性に合わせて、自分だけの「黄金比」を見つけ出していくこと。それこそが、用土作りの最大の楽しみであり、植物との深い対話の始まりなのです。
ぜひ、この記事を参考に、あなただけの最高の用土作りを始めてみてください。